今回は,損害賠償請求権としての慰謝料請求権が相続財産に含まれるかについて検討します。
慰謝料とは,不法行為により財産以外の損害を被った場合における,財産以外の損害に対する賠償をいいます。
ここにいう財産以外の損害は,精神的損害を意味します。
慰謝料請求権が相続の対象になるのかについては,遅くとも大正時代には議論されていました。
判例は,当初,慰謝料は精神的苦痛を被った本人のみが請求できるものであり,相続の対象にはならないという判断をしてきました。
その後,被害者本人が慰謝料を請求する意思表示をした場合には相続の対象になると判断するようになりました。
たとえば,被害者が亡くなる直前に「残念,残念」と言った場合には,被害者が加害者に対して慰謝料を請求する意思表示をしたものとして,相続財産の対象とされました。
これに対し,「助けてくれ」と言った場合には,慰謝料を請求する意思表示がなされたものとはいえないという判断をした判例もあります。
しかし、その後、交通事故で被害者が死亡した事案において、最大判昭和42年11月1日民集21.9.2249は、被害者の請求の意思の表明があつたときはじめて相続の対象となると解するのは、公平の観念および条理に反するとして、被害者は、慰謝料請求権についても「財産上の損害を被った場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得し、右請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使することができ、その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰藉料請求権を相続するものと解するのが相当である。」と判示し、慰謝料請求権が相続の対象となることを肯定しています。