時効の完成猶予・更新について

消滅時効とは、権利を一定期間行使しないと、その権利が消滅してしまうという制度です。
債権回収においては、債権が時効で消滅しないよう管理することが肝要です。そこで、今回は、消滅時効の完成を阻止するための方法について説明したいと思います。

1 時効の完成猶予・更新

時効完成阻止について述べる前提として、時効の完成猶予、更新について説明します。

時効の完成猶予とは、一定の完成猶予事由が生じた場合に、所定の期間、時効の完成が猶予される(時効の完成が先延ばしにされる)という制度です。

時効の更新とは、一定の更新事由が生じた場合に、時効の進行が一度リセットされ、またゼロから時効期間が進行することをいいます。

民法に規定されている時効の完成猶予・更新事由をまとめたのが次の表です。

完成猶予・更新事由 完成猶予 更新
裁判上の請求等(裁判上の請求・支払督促・起訴前の和解・調停・破産手続参加)
事由終了時まで完成猶予

確定判決・判決と同一の効力を有する権利の確定により更新
強制執行等(強制執行・担保権実行・形式競売・財産開示)
事由終了時まで完成猶予

事由終了により更新
仮差押え等(仮差押え・仮処分)
事由終了時から6か月間の完成猶予
×
協議を行う旨の書面による合意
(ⅰ)合意から1年、(ⅱ)合意で定めた協議期間の経過、(ⅲ)協議の続行拒絶通知から6か月、のいずれかまで完成猶予
×
催告
催告時から6か月間の完成猶予
×
(債務の)承認 ×
天災等の事変による裁判上の請求・強制執行不可
障害の消滅時から3か月間の完成猶予
×

協議を行う旨の書面による合意は民法改正により新設されたものです。

2 時効完成を阻止するための方法

(1)時効完成を阻止するための方法として、まず、時効期間の経過までに、上記の裁判上の請求等(訴訟・支払督促・調停等)、強制執行等をすることが挙げられます。

ただ、これらの準備には非常に手間がかかります。時効期間が経過する間際の場合は、まずは、内容証明郵便等で支払いを請求する(上記「催告」にあたります)ことで6か月間時効の完成が猶予されますので、その間に準備をして訴訟等を提起・申立することとなります。

そうすると、訴訟等の期間中は時効が完成しませんし(完成猶予)、勝訴判決等を得て、これが確定した場合、時効が更新されます。

(2)次に、債務者が債務を承認した場合も、時効が更新されますので、例えば、債務者に債務の表示された契約書・確認書等に署名押印させることができた場合や、債務者に債権の一部を支払わせることができた場合は、またゼロから時効期間がスタートすることとなります。これが手続的に一番簡便な方法といえます。

(3)なお、債務者と交渉中に時効期間が経過しそうな場合は、民法改正で新設された「協議を行う旨の書面による合意」を用いることで、時効期間の完成を猶予し(先延ばしにし)、債務者と交渉を続けることもできます。

この記事は弁護士が監修しております。

東京中央総合法律事務所 弁護士 河本憲寿(東京弁護士会所属)
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