会社役員の休業損害について3

前回までに,会社役員にも休業損害が発生しうること及び役員報酬の労務対価性の判断基準についてご説明しました。

今回は,会社役員の休業損害が問題となった裁判例(東京地判平成25年3月13日)をご紹介いたします。

1 事案の概要

上記裁判例の事案における原告は,訴外株式会社(以下「訴外会社」といいます。)の取締役の地位にあり,訴外会社から月額100万円,年間1200万円の役員報酬の支給を受けていました。

ところが,交通事故の被害に遭ったことにより,原告は,15か月間にわたり,全面的な休業を余儀なくされました。

そこで,原告は,上記交通事故の加害者である被告に対し,全面休業を余儀なくされた15か月分の役員報酬相当額1500万円を含めた損害の賠償を求める訴訟を提起しました。

2 休業損害についての主張及び反論

⑴ 上記裁判例における事案では,原告が訴外会社から支給されていた役員報酬のうち,労務対価性を有する部分の金額が争点となりました。

⑵ 原告は,上記交通事故により原告の被った休業損害額につき,原告が訴外会社の主要な業務に広く関与していたことを理由に,上記役員報酬全額が労務の対価として支給されていたものであると主張しました。

⑶ これに対し,被告は,訴外会社が原告の夫を代表取締役とし,多数の従業員を雇用する株式会社であることから,上記役員報酬のうち,少なくともその一部については労務対価性のないものであると反論しました。

3 裁判所の判断

⑴ 裁判所は,「① 原告は,本件事故が発生した当時,訴外会社の取締役の地位にあり,平成19年1月1日から本件事故発生の日である同年12月29日までの間,訴外会社から役員報酬として1200万円の支給を受けたこと,② 原告は,本件事故が発生する前,訴外会社及び訴外会社と役員等を同じくする関連会社において,経理・財務に関する業務として出納管理,現金管理,税務申告及び資金繰り等の業務を行い,総務に関する業務として給与管理及び各種社会保険に関する手続等の業務を行い,人事に関する業務として採用及び傷病手当金の申請等の業務を行っていたこと,③ 原告は,平成20年1月1日から平成21年3月末日までの15か月間,本件傷害のため訴外会社の業務に従事することができず,訴外会社から役員報酬,給与又はこれに類する給付を一切支給されなかったこと,④ 原告は,平成21年4月から訴外会社の業務に復帰したが,同月以降の業務量は本件事故の前よりも30パーセント程度減少していること,⑤ 原告は,上記④の復職に伴い,平成21年6月から,訴外会社より毎月100万円の給与の支給を受けていること」を前提に,「原告は,本件事故が発生した当時,訴外会社の役員報酬として年1200万円の収入(①)を得ていたが,訴外会社に復職した後は,本件事故の前よりも30パーセント少ない量の業務に従事している(④)にもかかわらず,本件事故が発生した当時と同じ水準の月額100万円の収入を得ている(⑤)。 以上の事実に照らすと,本件事故が発生した当時の原告の収入のうち,その一部は,原告の労働の内容や程度とかかわりなく得られていたと推認するのが相当である。そして,上記のとおり認定した原告の従前の職務の内容(②)にかんがみれば,原告が得ていた訴外会社の役員報酬のうち,原告の労働と対価的関連性を有する部分の金額は,一般的な労働者が得るであろう平均的な賃金の2倍程度の額に相当する年960万円と認めるのが相当である。」との判断を示しました。
 その上で,裁判所は,原告の被った休業損害額につき,「本件事故による原告の休業損害は,基礎収入年960万円を1年の月数12月で除し,休業期間15月を乗じて得られる1200万円」であると判断しています。

⑵ 「会社役員の休業損害について2」において,裁判実務では,会社の規模や利益状況,交通事故の被害に遭った役員の年齢,役職,職務内容,役員報酬額,他の役員の職務内容と報酬額,他の従業員の職務内容と給与額,事故前後での役員報酬額の増減の有無及び増減額等から,役員報酬の労務対価性について判断を行っていることを説明いたしました。
 上記裁判例は,上記裁判実務の内容に沿ったものといえます。

この記事は弁護士が監修しております。

東京中央総合法律事務所 弁護士 河本憲寿(東京弁護士会所属)
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